
1999年12月24日。僕は象小屋にいた。
その時、世界は僕を中心に回っていた。
それは紛れもない事実だ。
だから、僕は世界の中心で目立ち過ぎないように息を潜める。
それは、僕にとって当然の作法の ように思えた。
そして、僕はその作法に従い恋人に別れを告げた。
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僕はとある地方都市の動物園で飼育員をやっている。
その動物園は、町を見渡せる高台にあり、
中でも象小屋からはすべてを見渡すことができた。
だから、象はその町のシンボルとも言える存在 だった。
問題が起きた。町は動物園の閉鎖を決定した。
そして、
町は僕に象の毒殺を命じた。
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「世界は4匹の象によって支えられている。これは、本当の話だ。」
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象博士を名乗る男は、僕にそう告げた。
《象博士の主張》
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1.世界はまもなく崩壊する。
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2.その理由は、世界を支える象のうちの一頭が逃げ出したからである。
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3.逃げ出した象とは、僕が毒殺しようとした象にほかならない。
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4.僕は特殊な力を持つ『象使い』で世界を救う使命がある。
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僕は、その話を鵜呑みにするほど子供ではなく、
狂人に対して慈愛の目を向けられるほど大人ではなかった。
だけど、様々な要素にがんじがらめになっていた僕は、
およそ理解できない説明を納得せざるを得なかった。
かくして、探索の旅は始まった。
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これは、今から3年前、1999年の話である。
世の中も僕もそれほど大きな変化を遂げていない。
僕はま だ世界の中心にいて、ずっと息を潜めたままだ。
だから、
もう一度だけ旅立とうと思う。
この膨張した世界を支える新しい『象』を見つけるために。
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